「あ!、ナルト兄ちゃんの先生だぞ、コレ!!」
「ん〜?」
背後からバタバタと砂埃を上げて子供達がカカシの元へと走ってくる。
振り返って見てみれば、三代目の孫である木ノ葉丸とモエギだった。

「約束よ!!。私たち約束ちゃんと守ったんだから!!」
「え〜っと・・・・何の約束だったっけ・・・・?」
はて?、と首を捻る。
いきなり『約束よ』と言われても、何のことだか分かるはずもない。
そもそもこの子供達と会話したのも怪しいところだ。
カカシが遙か以前の記憶を思い出そうと視線を空に向けると、下の方からぎゃんぎゃんと子犬の様な叫びが聞こえ始める。
「酷いぞ!!。“ナルト兄ちゃんを1日貸してやるからイルカ先生を川に落とせ”って言ってきたのナルト兄ちゃんの先生だぞ、コレ!!」
その声にカカシの動きは止まる。

言った。
確かに言った。


あれは何時だったか、失せ物探しの任務を受けていた時だった。
川に落ちた指輪を探せと何ともくだらない任務を部下のナルト達に押し付けて、カカシ本人は木の木陰で暢気に愛読書を読んでいた時だった。
ふいに、背後から声を掛けられた。

『今日は川の中の失せ物探しですか?』
振り返る必要も無い程、その声の主が誰だかはカカシにとって聞き覚えのあるものだったが、パタリと本を閉じるとサッと立ち上がってその声の主の方へと振り返った。
そう、声の主はカカシが密かに想いを寄せている相手、うみのイルカだったからだ。

『ははは、今日は指輪です。イルカ先生、今日は受付はお休みだったんですか?』
任務を受け取りに行った時、愛しいイルカ先生の姿が見えなかったから寂しかったんですよ〜などと冗談めいた口調で本心を告げると、イルカはポリポリと鼻傷を掻きながら
『今日はアカデミーの子達とちょっと薬草を取りに行ってたんです』
などと照れながら話してくる。
当然冗談と取ったのであろうが、イルカは言われ慣れていないのか初々しい。
そんなイルカの仕草に、もちろんはたけカカシはメロメロだった。
『あっ!!、イルカ先生だってばよ!!』
イルカの可愛さに一人悶えていたカカシを余所に、どうやらナルトがイルカの存在に気付いたようでぶんぶんと川の中から手を振っている。
そんなナルト達の元へとイルカは、アッサリとカカシを放って川の方へと駆け寄っていってしまった。

『・・・・ナルトのヤツ・・・・』
せっかくのイルカ先生との会話を引っさらわれてグググと子供染みた嫉妬心が芽生える。
よし、後でナルトには他の事もさせてやろう・・・などとこれまた大人気ない考えをしている時、それは起こった。

『先生は探さないのか?、コレ』
『ん?』
振り返ればイルカが連れていたアカデミーの生徒だった。
よくよく見ればその生徒は三代目火影の孫の木ノ葉丸。何かと問題を起こして世話がかかると以前イルカが話していたのを思い出した。
『だから、先生はナルト兄ちゃん達と一緒に探さないのか?』
言われた内容を理解すると、カカシはガシガシと後頭部を掻いた。
『ん〜、俺はいいのよ。あれは任務だからね。ナルト達の』
『そうなんだ、コレ』
『ん、そうなの』
『じゃぁ、一割はナルト兄ちゃんの物なんだな、コレ』
『は?』
『落とし物を拾ったら、一割もらえるってエビスが言ってたぞ、コレ』
『ああ、なるほどね。ん〜、これは任務だから一割はもらえないなぁ・・・。
その代わり確実に報酬が出るけどね』
『そうなのか』
どうやら一割は貰えないが変わりに何かを貰えると言う事は理解したらしく、木ノ葉丸は両腕を頭の後ろにまわして口をとがらせた。
『何か絶対に貰えるんなら任務がいいな、コレ』
『まーね。 ・・・でも一割かぁ・・・。イルカ先生の一割だったら欲しいよねぇ・・・』
ポツリ、とカカシの口から自然と零れ出た呟きに反応したのは、木ノ葉丸の隣に立っていた小さな女の子だった。
『イルカ先生の、一割?』
『え?、あっ・・・、まあ、ね』
しまった。
そう思い慌てるカカシを余所に、会話は何ともおかしな方へと流れていく。
『一割あげるから、ナルト兄ちゃんと遊ばせてくれるか?』
『はあ?。・・・ん〜、一割くれるなら、ね』
『約束よ!!』
『約束だぞ!コレ!!』
イルカ先生の一割をナルトの1日で貰えるならこれほど安い事はない。
そんな事を暢気にカカシは思ってコクリと頷いたのだった。


(・・・あの時か・・・・・・)

「あ〜、ナルトね、ナルト。いいよ〜、1日でも1年でも貸してやるよ〜。 ・・・ま、1年は無理か」
まさか本当にイルカ先生を突き落とすとは・・・。
恐ろしい子供達だと内心思いながらもナルトの事を承知する。
「約束だぞ、コレ!!」
「貸してくれる時になったら教えてね!!」
「は〜い、はい」
カカシの言葉に満足したのか、再び子供達はバタバタと足音を立てて走り去って行ってしまった。
そんな後ろ姿にカカシは低く手を振って見届けると、クルリと踵を返して呟く。

「・・・それじゃ、ま、拾いに行きますか」


生い茂った木々を押し遣って足を踏み入れると、川縁にイルカらしき影が見えた。
まだ岸には上がってはおらず、片腕だけが川の縁に乗っている。
「・・・・イルカせんせ?。」
声を出してみると、その影が大きく揺れて同時にぴょこんと可愛らしいイルカの顔が見えた。
「あっ、カカシ先生。任務終わったんですか?」
この状況で何でそんな話になるのか、とカカシは笑いそうになってしまったが、ここでその話になってはせっかくの一割が台無しだ。
「あ〜、うん。ってか、・・・落ちたの?」
取りあえず、後々言い訳できないように確認してみる。
「ははっ。みっともないところを見られちゃいましたね。ちょっと子供達と遊んでて足が滑っちゃいました」
しかしなかなか落ちたと認めない。
「ね、落ちたんだよね?。 落ちてるんだよね?」
再びカカシは確認するが、必死になって聞いている事にカカシ本人は全く気が付かない。
「は?。・・・はあ、まあ・・・・」
『何が何だかよく分からないが、取りあえず無難な返事を返そう…』と小さく頷くイルカを見届けると、カカシはサッと手をさしのべる。

その手を、イルカが握った瞬間。


「じゃ、一割ね」
「は?」
ポカンとイルカの口が開いたままになる。
何の一割か意味が分からない。という様な顔のイルカに、カカシは再び言い放った。

「拾ったから。 これでイルカ先生の一割は俺のだよね?」
「は?」
「また、落ちてくださいね」

そしたらまた、一割もらうから。


そう言って、カカシはびしょ濡れになったイルカを抱き上げてニコリと微笑んだ。

NARUTO:カカシ→イルカ

激短時間で書き上げたSS(SSSと言った方が正しいか;;)。
TOP画からSSSを書いてみました。
今回一番困ったのは木ノ葉丸・・・・。喋り方に“〜コレ”が付くので面倒でした・・・。
いつかコッソリ手直しすると思います、このSSS。