注意:死にネタ






うみの イルカ様へ
  
俺は死んでも
 
ずっと イルカ先生を愛しています。
 
はたけ カカシより
 
 
  
「あ〜あ、せっかく生まれて初めて書いた手紙だったんだけどなぁ・・・・」
 
そう呟いてクシャリと手の中で丸め込む。


以前、紅に“手紙も書いたことが無いの?”と異常なほどに驚愕されて。
どうせ書くならば、生まれて初めて書く手紙の宛先は愛しいイルカ先生にと思った。
出来栄えなんてどうかは分からない。
何せ生まれて初めて書いたものだから。
 
しかし、これを読んだイルカは涙を目じりに浮かべてたいそう喜んだ。
大事にします。と、小さな小箱に大事そうに仕舞った。

なのに。
  
「ひどいよ・・・イルカせんせ・・・・。俺を置いて逝っちゃうなんて・・・・」
  
ほんと、ひどい。
 
  
 
イルカが死んだ。
 滅多に無い里外での任務。それもBランク。
大した内容では無かったためカカシは安心したし、当のイルカ本人も
『行って来ます、すぐに戻りますから』
と笑顔で家を出て行ったのだ。
 
それが・・・。
情報の誤り。
 
Bランクは瞬く間にAランクに書き換えられ、それでもSとは行かずともAでも最上級のランクに値したのだ。
しがない中忍が1人。
相手は名も分からぬ抜け忍数名。それも、みな上忍レベルで。
あっという間にとはこのことで、まるで赤子の様に殺されたのだ。
 
遺体は見れたものではなかった。
しかし、カカシはその遺体にすがりつき放さなかった。
血まみれになり、イルカとも分からぬ姿を愛おしそうに抱きしめたのだ。
他の者はもちろん、火影もそれを止めることが出来なかった。
火影は遺体を供養するまでの間、カカシの元で安置しておくことを許可した。

 
今、カカシの目の前にはイルカが居る。
正確には、横たわっている。
濡らした布で綺麗に血を拭ってやると、外傷は目立つがいつものイルカがそこにいた。
 
いつもより、ほんの少し肌の色が白くて。
いつもより、ほんの少し傷が多くて。
 
いつもより、はるかに冷たかった。
 
「ねえ、イルカセンセ、起きてよ。俺、お腹空いちゃった。あのね、もう2日も何も食べてないんだよ?」
カカシがイルカの側に座り込む。
「ねぇ、センセ。傷、痛くない?。ちょっと顔色悪いよ?。ねぇ、聞いてる?」
カカシはイルカの顔を覗き込むように腰を折ると、ゆっくりとイルカの頬を撫でる。
「ね、お風呂入ろうよ。一緒に。センセ寒いデショ?こんなに冷たくなって・・・・」
震える指先が、イルカの唇で止まった。
 
「なんで・・・っ、なんでこんなに冷たくなってんの!?、何で返事しないの!?」
 
  
なんで、俺を置いて逝くの?
  
「イルカ・・・・っ」
力強く抱きしめると、イルカの着ているベストの胸元辺りからカサリと微かな音が聞こえた。
何かに導かれるように、カカシは胸ポケットを探る。
出てきたは、1枚の白い紙切れ。
 
震える指先を何とか抑え、カカシはその紙切れをゆっくりと開いた。
二つ折りにされていたそれは広げると小さな紙だった。
目を通すとすぐに宛名が書かれていた。
字はイルカに不似合いなまでに乱れており、彼が息を引き取る間際に書かれたものだと嫌でも分かる。
 
『はたけ カカシ様へ』
 
カカシは冒頭に目をやると、思わずそれを手の中に丸め握りつぶす。
つい先ほど握り締めた手紙と同じように、力を込めて掌で丸め潰した。
カカシはどうしても読めなかった。
読めばもうイルカは居ないと認めそうで。
イルカは死んでいない。

そう思いたかったし、今でもそう願っている。
 
なのに、目の前に居るイルカは全く動かない。
 
瞼も 
唇も 
胸も 
心臓も。
  
何一つ動かない。
 
「・・・・おめぇ、いつまでそうしてるつもりだ」

背を丸めて居るカカシの背後で聞きなれた声が響いた。
「・・・・・・」
「イルカの生きてた証を消すんじゃねぇよ」
「・・・うるさいよ。何か用?無いならすぐに消えな」
こちらを向かずにカカシはアスマに話す。
そんなカカシの背中を見つめ、『めんどくせぇ』と呟くと、ぱさりとカカシに向けて封筒を投げた。
 
「イルカから預かってたヤツだ。俺はンなモン必要がねぇっつったんだが・・・」
そう言うと、アスマはカカシに背を向けて玄関の引き戸を引いた。
そして、一歩足を踏み出して口を開く。
「イルカがよ、“俺も忍だから、いつ何があるかわらないから”っつって俺に預けてきたんだ」
それでも、カカシは動かなかった。
ちらりと視線をカカシに向けてすぐに視線を前に戻す。
 
「本気でてめぇがアイツのこと好きだっつーんなら・・・・現実を否定するな。前を向け」
 
そう言い残してアスマは扉を閉めた。
 

暫く動かなかったカカシは、そっと背後に投げられた物を見つめた。

白い、ありふれた縦長の封筒。
その表面に律儀にも
【遺書。】
と書かれてあった。
字もいつものイルカの字で達筆だった。
 
『否定すんな』
不意に、アスマの声が響いた。
 
「分かってるって・・・・」
分かってる。
痛いほど、分かってる。
 
分かってるからこそ、これ以上傷付きたくないんだ。
 
カカシはそっとその封筒に手を出した。
びりりと音を立てて上を千切り、中を覗くと1枚の便箋が入っていた。
  
カカシは深く息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出した。
そして、手の中にある紙をゆっくりと開けた。
 
 
『はたけ カカシ様へ』
  
俺が、何の前触れもなく
死んでしまったら。
  
カカシ先生、あなたはきっと悲しみに暮れて毎晩泣くでしょう?。
あ、今『なに自惚れてやがんだ』って思いました?。
あはは、すみません。
でもね、泣いてくれると思うんです。絶対。
 
だって、いつか2人じぃさんになったら忍びを引退して、行こうって約束しましたもんね。
この里から遠く離れた、あの島に。
あと、毎晩一緒に夜空を眺めて生きましょうって。
 
ごめんなさい。
カカシさんがこれを読んでるってことは、
俺、約束破ってしまいました。
 
ねぇ、カカシ先生。
お願いがあるんです。

俺が死んだら、骨は地に埋めないで欲しいんです。
大切な教科書や、
あなたと俺と…子供たちの写真が入った写真立ても、
全部。
ひとつ残らず 焼いてください。
そして、灰になった俺をあなたの両手で、風に乗せて。

あの日、あなたと出逢ったあの海へ
返してください。
もし、俺が死んでなくても。
何かがあって意識さえない体になって、
あなたの口づけでも目覚めないのなら
お願いします

あなたの腕で終わらせて。
その時も、俺を埋めないで。
俺を、海に返して。
 
 
あなたは強いから。
いつか前を向くはずです。
悔しいくらい、妬いちゃうくらい。
俺が、死んでも死にきれないくらい、あなたは沢山の人に愛されてますから。
  
その時は、あなたも求めて。
そして、愛されてください。
そうなったら、俺の分まで幸せでいて。
あなたが幸せになってくれなくちゃ、俺、きっと化けて出ちゃうと思いますから。
 
でも。
 
俺の誕生日だけは。
独り、あの丘で泣いて欲しいんです。
・・・これってやっぱり我侭すぎますか?。
でもね、1日だけでも。 
自分の事のように喜んでくれた、あの日だけでも。
死んでも、1日だけでも
 
あなたの心を独り占めしたいんです。
あの丘で、あの海の上で。
俺を 想って。
 
カカシさん ありがとう。
あなたを愛することができた事が 
何よりの 幸せでした。
 
『うみの イルカ』
 
 
 
ポツリと音が鳴る。
読んでいた便箋の上に、また、ぽつり、ぽつりと音が鳴った。
 
「・・・イルカ・・・――っ!!」
カカシはそれを握り締めたまま、生まれて初めて声を出して泣いた。
 
 
煙が天に昇る。
その下で、パチパチと火の粉が爆ぜた。
 
「・・・・いいのか?」
「なにが?」
「・・・イルカを里に残さなくても・・・・」
「いいんだよ。これがあの人と俺が望んだことなんだから・・・・」
話しかけたのはアスマだった。
イルカの埋葬はイルカの遺書とカカシの切実な要望で無くなった。
その代わり、数度に渡ってイルカの遺体を火葬している。
1度燃やしただけでは灰にならないのだ。
 
「・・・あ、そーだ」
そういってカカシはポケットから1枚の封筒を取り出した。
そして、それを火の中に放り投げる。
「て・・・てめぇ!、今のはイルカの遺書じゃねぇか!!」
あまりの驚きにアスマの口からポロリと煙草が地面に落ちた。
そして、今投げられた物を取り出すべく火の中に近寄ろうとした時、
カカシの翳した腕でそれを遮られた。


「いいんだよ、アスマ」
「カカシ・・・お前・・・・」
なに言ってやがる・・・そう続けようとした台詞が止められる。
「いいんだ。俺にはこれがあるから」
そう言って、別のポケットから二つのグシャグシャな皺が付いた紙を取り出す。
そして、それを愛おしそうに見つめるとその場から去って行った。

その後姿を見つめながら、アスマは新しい煙草を吹かすとにやりと口端をあげる。
 
「ホント、めんどくせぇ奴らだぜ・・・」 
その声もまた、煙草の煙と共に天に消えていった。
 

カカシはその足で海が見渡せる丘へと来ていた。
遺書に書かれた、あの丘。
「ね、イルカせんせ・・・・もうすぐ先生のお願い事を叶えられるよ。結構灰になるのって時間がかかるみたい。もう少し待ってね」
 
さわさわとカカシの髪が風に揺れる。
 
「でもね〜、もうひとつのお願い事は叶えてあげないよ。俺はイルカ先生しか愛さない。いくらイルカ先生のお願いでも、こればっかりは叶えられないから」
そう言って、カカシは手に持っていた2枚の紙を見つめた。
 
1枚はカカシが初めて書いたイルカに宛てた手紙。
もう一つは・・・・あの時イルカの胸ポケットに仕舞われていた小さな紙切れだった。
 
「悔しかったら・・・化けてでちゃいなさいよ。ね、イルカせんせ」
 
 
はたけ カカシ様へ
  
俺も 死んでも 
ずっと、ずっと
 
カカシさんを 愛しています。 
 
うみの イルカより
 
 
 
誕生日とは言わず、何度でもこの場所に足を運ぶだろう。
そして、その度に自分はイルカを想い涙を流すだろう。
いつか、
いつかカカシがイルカの元へと逝く日が来るまで…きっと。
 
「ホントに…死んでても、俺を愛し続けてよ?。
イルカせんせ…」
 
皺だらけになった紙切れを見つめて、カカシは切なく笑った


NARUTO:カカシxイルカ

以前サイトにUPしていたSSの遺書をTITLEに持ってきました。
死にネタだし、カカシさん可哀想ですけど
初めて書いたNARUTOの話がこれだったので思い入れが…(苦笑)。

イメージソングはCoccoの【遺書。】です。