※DQTEXTの『あふれる感情を唇にのせて』の武道家視点です。
(『あふれる感情を唇にのせて』は←コチラから)






『貴方が好きです』



空耳か、幻聴か。

その言葉に俺は自分の耳を疑った。
けれども、目の前のアレルの瞳が何時になく真剣で。
ああ、夢じゃないんだなって呑気に頭の隅でそう思った。

正直言って、驚いた。
だって、俺はずっと好きだったから。

『嬉しい。 すっげえ、嬉しい』

そう言いたかったけど、
人を好きになった事も、好きになってもらったことも初めてだった俺は。
情けないことに、曖昧な笑顔を向けることしかできなかった。

いつか、この旅が終わったら。

きっと、この旅が終わったら。

二人、一緒になろう。

そんな俺が何とか絞り出した言葉は、今ではなく未来の話だった。

正直言って、逃げの言葉だった。
 
 
もちろん、アレルのことは本気で好きだ。
初めて抱いたこの気持ちは嘘じゃない。
でも。
どうしていいのか、どうすればいいのかが、
分からなかった。


その後も俺達の旅は続いて。
日を追う毎に精神的にも肉体的にも辛くなっていった。
16才のアレルには、過酷すぎるとは分かっていた。
夜中に人知れず泣いていた事だって、俺は知ってる。
そう、俺は知ってた。
けれども、その涙さえ俺は拭うことが出来なかった。
もう、どうしていいのか分からず、
自分自身何がしたいのか分からなくなっていた。


そして。
ようやく世界に光が戻った。
俺はと言うと。
何故かアレルの元には行かず、ルイーダで祝杯を挙げている。

なんなんだよ、俺。
ホント、何がしたいんだ。
俺が言ったんじゃねえか。
旅が終わったら、一緒になろうって。

柄にもなく泣きそうになって、持っていたグラスを勢いよく煽った時、背後から恐ろしい怒声が聞こえた。

『ちょっと!、アンタ。 好きな子を慰めるとか、何かできなかったわけ!?』

ビクリと肩を震わせて振り向けば、
討伐メンバーに入っていた僧侶が真っ赤な顔をして俺に向かって叫んでいた。

いつも冷静で優しく、
物静かだった僧侶がこんな顔で大声を張り上げているのにも驚いたが、
言ってる内容にも更に驚いた。

『何とか言いなさいよ!。アンタがそんなだから・・・っ!。
アンタはあの子を苦しめてるだけじゃない!!』

黙ってる俺に容赦なく僧侶は詰め寄ってくるが、それでも俺は何も言えなかった。
だって、その通りだから。
しばらくして、僧侶の豹変振りに酒場にいた仲間達が
なに事かと集まりだして何とかその場を納めたけれど、
僧侶は最後まで俺を睨んでた。


翌朝、目が覚めて酒場の方へと足を向けると、
いつもの穏やかな僧侶がカウンターに座ってルイーダと話し込んでいた。
 何となく気まずいながらもおはようと声を掛ける俺に、僧侶は困った表情に少し笑って、頭を下げてくる。
 
『昨日はごめんね、言い過ぎたよね。
二人のことなのに、私、余計な口を挟んじゃって…』
 
いいんだ。
僧侶の言ってたことは正しいんだから。
俺はアイツを苦しめてばかりで、何にもしてやれなかった。
 
だから。
 
ここから離れようと思うんだ。
 
俺の言葉に驚いたのは僧侶だけではなかった。
 
『なに?、この店から登録を抹消するって言う事かしら?』
ルイーダの鋭い声がこっちに向かってくる。
 
そう、早い話がそうだ。
もうアリアハンに居られない。
 
『どうしていいか分からないんだ』
 
ポツリと呟く俺の台詞に、ルイーダは一瞬呆れたような顔になり、そして小さくプッと笑った。
 
・・・・何がおかしい?。
 
『うふふ。可愛いのねえ、アンタって。 
でも、残念だけど抹消はしてやれないわ』
 
・・・可愛いって何だ。
 それに、登録を抹消してもらわないと困る。
 他の街に行っても俺は武道家として登録が出来ない。
 
『アンタは何がしたいの?。アリアハンという国が嫌になったの?』
 
・・・違うけど。
 
『じゃあ何?。好きな子に対してどうしたらいいか分からないから?。
好きな子を困らせたくないから?』
 
何でそれを・・・・。
まあ、そうなんだけど・・・・。
ルイーダが知っていることに驚いたものの、これまたズバリと言い当てられて情けなくなってしまう。
 
分からないから、もう逃げるしかないんだ。
 
『ねえ、一つだけ教えてあげようか?』
 
そう言って、ルイーダは人差し指を自分の唇に当てて口端をニイっと吊り上げた。
何をと聞く前に、本能で俺の頭は軽く頷く。
それを見届けたルイーダは、満足げに俺にこう言ったのだ。
 
『バカは頭じゃなくて、体で勝負しろって事よ』
言葉よりも、態度で示すだけでいいから。
 
 
その言葉を背に、俺はアイツの家へと足を向ける。
 
確かに。
 
気の利いた言葉はきっと、一生掛かっても俺の口からは出てこないだろう。
 
ならば。
 
 
愛していると言う言葉の変わりに、
俺の腕でアイツを抱きしめよう。


DRAGONQUEST V:武道家&勇者

勇者の名前はスクエニ出版の小説から『アレル』で。
ドラクエのお題の『あふれる〜』の武道家視点です。
ん〜、何か思い通りに書けなかったのが残念です;;。
いつかこっそり手直しするかも・・・。
*元画像サイズの都合で横向きになってしまいました。